「勘と根性」から「アートとサイエンス」へ
AIはブームではなく、すでに現場インフラの一部になりつつあります。
作業療法士がAIを「学ぶ側」で終わるか、「使う側・設計する側」に回るかで、これからの10年が決まります。
AI作業療法の基礎知識と、現場で本当に使える活用パターン
「AI作業療法」という言葉が少し先進的に聞こえても、やっていることはシンプルです。
“評価・記録・計画・共有”のプロセスを、データとアルゴリズムで最適化する。これだけです。
すでに医療・介護現場で実用が進んでいる活用例として、例えば以下があります。
- バイタル・歩行データ・活動量計などの情報をAIが解析し、リスク変動を早期に可視化
- カルテ・訪問記録・SOAPを生成AIが要約し、記録時間を短縮
- タブレットやカメラを用いた動作分析で、姿勢・バランス・上肢機能を定量評価
- 認知機能トレーニングアプリや在宅リハ支援ツールによる、個別最適化された課題提示
これらは「AIがリハビリをやってくれる」のではなく、OTがより的確に判断しやすくなる“増幅装置”です。
高齢者、発達障害、脳血管障害、在宅領域など、多様なケースで「同じ時間で、もう一段深い支援」が可能になります。
作業療法士(OT)とAI ─ 役割を奪われるどころか「設計者」になる話
AI導入でよく出る不安、「OTの仕事がなくなるのでは?」という話。
結論から言うと、現状の医療・介護ニーズと人員状況を踏まえると、その心配をしている時間がもったいないレベルです。
AIが得意なのは、以下のような業務です。
- 大量のデータ処理(記録要約、傾向分析、帳票下書き)
- パターン検出(転倒リスク、活動低下、認知機能の変化傾向など)
- ルーチン提案(頻度・負荷量・メニュー組み合わせの提示)
一方、AIが代替できないのは:
- その人の人生史・価値観・家族関係を踏まえた意味づけ
- 「その家ならでは」の環境調整・生活設計
- 感情の揺れや微妙な違和感を捉える臨床感覚
ここにOTのコアがあります。
AIに業務を奪われるOTではなく、AIを使ってチーム全体の臨床精度を引き上げるOTが、これから求められる人材です。
自助具 × AI ─ オーダーメイド支援を「早く・安全に・再現性高く」
自助具作成は、作業療法士の腕の見せどころです。ただし、「毎回ゼロから考える」「個人技で終わる」と生産性も継承性も低くなります。
AIを組み合わせると、自助具開発は次のステージに進みます。
- 評価データ・写真・動画をもとに、AIが形状や寸法の候補案を自動生成
- 3Dプリント用データのたたき台をAIが作成し、OTが微調整して出力
- 過去症例を検索し、似たニーズに対応した自助具デザインをすぐ参照
結果として、患者ごとのカスタマイズ精度を保ったまま、設計時間を短縮できます。
「手先の器用さ+臨床推論」に「デジタル設計力」が加わることが、これからのOTの武器になります。
AI技術がもたらす作業療法のアップデート
AI導入のポイントは、「特別なプロジェクト」ではなく、既存の業務フローに静かに溶かし込むことです。
- リハビリ頻度・歩行距離・睡眠・栄養などをAIがモニタリングし、悪化兆候をアラート
- 集積データから「このプロファイルにはこの介入が有効だった」パターンを抽出
- カンファレンス資料や報告書のドラフトを生成AIが作成し、OTが臨床的観点で最終調整
これにより、「紙と記憶」と「気合い」で回していた部分が、エビデンスとログに基づいた運用へシフトします。
無駄な残業と謎のExcel地獄を減らすことは、そのまま利用者への時間投資に直結します。
現場でのAI導入のリアルな効果
実際に活用が進んでいる領域では、以下のような変化が報告されています。
- 記録・書類作成時間の短縮 → 直接訓練・家族支援の時間が増加
- 状態変化の早期発見 → 転倒・誤嚥などのインシデント予防に寄与
- スタッフ間での情報共有の標準化 → 「人によって説明が違う」を減らす
AIは「派手なガジェット」ではなく、安全と質を底上げするインフラとして使うのが現実的です。
医療におけるAI活用と作業療法への影響
画像診断支援、問診支援、薬剤相互作用チェックなど、医師領域で始まったAI活用は、リハビリにも波及しています。
- 歩容分析システムによる客観的評価
- 認知課題・注意課題の自動出題・難易度調整
- 在宅環境や生活動作のリスクシミュレーション
ここで重要なのは、AIが出した結果をどう読み解き、どう生活に落とし込むかはOTの仕事だということです。
AIは「診断もどき」をしてはいけませんが、「判断材料を揃える」役割としては非常に有用です。
作業療法士のキャリア戦略 ─ 「AIを使えるOT」は武器になる
高齢化、人手不足、在宅推進、医療費抑制。
この文脈で、「AIとデータを理解しているOT」への評価は今後確実に高まります。
キャリアの具体的な広がりとしては:
- AI・DX推進担当OT(院内・法人内プロジェクトのリーダー)
- 在宅・地域リハ領域での遠隔モニタリングと介入設計
- 自助具・福祉用具・リハTech企業との共同開発
- 教育機関・研修講師としての「AI時代のOT教育」への参画
「臨床+テクノロジー」の視点を持つOTは、職場にひとりいるだけで組織全体の動きを変えます。
資格を取って終わりではなく、AIリテラシーをアップデートし続けること自体が、これからの専門性です。
AI時代にOTが今からできる実践ステップ
抽象論では動かないので、実務ベースで整理します。
- 日々の記録や報告書作成に生成AIを試し、「使える型」を自分で作る
- 評価指標・歩行距離・活動量など、数値データを一箇所に集約して可視化する
- AIツール導入時のリスク(情報漏洩、著作権、医療情報の扱い)を正しく理解する
- 「AIに任せていい部分」と「人が担うべき判断」の境界線をチームで共有する
最初から完璧なシステムを目指す必要はありません。
「1日の中で10分でも、AIに任せられる仕事を見つけて置き換える」ことから始めるだけで、1年後には大きな差になります。
生成AIとリハビリテーションのこれから
生成AIは、文章・画像・コード・デザインなどを高速に生み出せるツールです。
作業療法の現場では、例えば:
- 個別訓練メニューや自宅用運動プログラムのドラフト作成
- 家族向け説明資料や多職種連携用サマリーの自動生成
- 症例検討用の視覚資料や教育コンテンツ作成
ただし、生成AIの内容は必ずOTが臨床的観点からチェックすることが前提です。
その前提さえ守れば、生成AIは「時間を奪う事務作業」を削り、人と向き合う時間を取り戻すための最強のアシスタントになります。
AIは「脅威」ではなく、「プロフェッショナルOTをさらに尖らせる増幅器」。
作業療法の専門性を守りつつアップデートしていくかどうかは、現場の私たち次第です。
AIは特別なオプションではなく、作業療法を「速く・正確に・共有しやすく」するインフラになりつつあります。ポイントは、AIに任せる領域を設計できるOTになることです。
AI×作業療法 ─ 実務で使えるポイントだけ
- 評価・歩行・活動量などのデータをAIが解析し、リスクや変化を早期可視化
- SOAPや報告書のドラフトを生成AIが作成し、OTが臨床的に修正
- 動画・画像から姿勢や動作を定量評価し、介入効果を見える化
OTの仕事は「奪われる」のではなく「アップグレードされる」
- 人生背景・価値観・環境を踏まえた意味づけは人にしかできない
- AIの提案を選別し、生活場面に翻訳するのがOTの専門性
自助具×AI
- 評価データや写真から自助具案をAIで生成し、OTが安全性と適合性を最終判断
- 過去症例データを活用し、短時間で高精度なカスタム自助具を設計
AI時代のOTキャリアと即実践ステップ
- 生成AIで記録・資料作成を効率化し、対人支援に時間を回す
- 数値データを蓄積し、「なんとなく」ではなく根拠ある提案へ
- 情報セキュリティとAI利用ルールを理解し、チームの推進役になる
生成AIとリハのこれから
訓練メニュー案、家族向け説明資料、多職種共有用サマリーなどはAIに下書きさせ、OTが臨床目線で最終チェックする時代です。AIは代役ではなく、「専門性を増幅するツール」として使いこなすことが鍵になります。